数年前。
まさにこの時期。僕たちは新入社員歓迎会という
大役を終え、気持ちが高揚していた。
寿司屋で少し肴をつまんで、なんて小粋な
行動をとったその後、夜のすすきのへ繰り出した。
人混みを縫うようにお目当てのキャバクラ、
キューティーバニーの門をくぐったが
生憎の満席。
失意の中でビルを出て呆然と立ちすくんでいる
その時。
”いい店ありますよ!”
チラっ
”今なら3000円ぽっきりですよ!”
キューティーバニーへの思いが強すぎた
僕らは正気を失っていたのだろう。
それほど甘い誘い文句ではない黒服の後を
追いかけていた。
店内へは仲間と別々に案内された
今までにない経験したことのない暗闇。
期待は膨らむ。
”◯◯ちゃんです。”
きた!
ん?
前髪が顔の半分くらいまである。
ん?
声がしゃがれている。
膨らんでいた気体は急速に
しぼんでいった。
太ももに手をおかれながらも
所在なさ気で居た自分に彼女は
”1万円くれたら、すごいことになるかも”
ん?
ぽっきり3000円じゃないの?
普通なら二つ返事で断るところだろうが、
悩んだ。
悩んだあげく、
”それも悪くないね”
そう返事をしていた。
と、その瞬間。黒服が突然現れ、
”お連れ様が帰るとおっしゃてます”
!
同じオファーを出されたお連れ様は
憤慨し、俺は帰ると。
仲間を連れて帰る!と。
豪快に啖呵を切ったようだ。
ああ。
流される。流されるままに生きてきた自分の
何と情けないことよ。
すすきのでは、客引きについて行っては
いけない。
必ず情報誌、もしくは案内所で店を決めるように。
案内所の前にたむろしている輩とは会話はしては
いけない。
肝に命じる。
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